一戸建ての家を建てるというとき、多くの方が、木造がいいと希望されます。ある統計によれば、日本人の90%近くが「住むなら木造住宅」と答えているのだそうです。コンクリートの家にはないぬくもり、安らぎは、古くからの日本の暮らしに根づいた文化になっているのです。
木造の家の魅力には、木の香りといったものもありますし、木材には湿度を調節してくれる機能もあります。
多くの日本人が、自分たちの住む家として、木造がいいと支持するのも、当然のことと言えるでしょう。
自分の好みにあった家を作れる在来工法
木造建築の工法には、在来工法、ツーバイフォー、プレハブなど、様々なものがあります。
ツーバイフォー工法は、壁で建物を支える仕組みのため、「枠組壁工法」という別名があります。気密性が高い一方、壁で支える仕組みということから、大きな開口部を作ることができません。「数種類の規格サイズと材種の木材を切断し、釘でとめる」という技術の繰り返しによって、家を建てていきます。
一方、プレハブは、工場で作られたものを現場で組み立てる工法です。木材の切断などもほぼ不要です。
いずれの工法でも、建築技術は1~2年で習得できるもので、誰が建ててもほぼ同じレベルの家を建てられます。どちらも建築期間が比較的短く済むというメリットがあります。
ただし、規格による住宅のために、お施主様の注文に応じるには限界があります。とくに将来的に増築や改築を希望されるような場合には、不向きです。
これらに対して、在来工法は、梁、スジカイなどの木の軸を組み合わせて建てる、日本の伝統的な建築方法です。
日本独特の高温・多湿な気候の中で生まれ、今日まで綿々と育まれつづけてきた、この国の風土に最も適した工法だと思います。
壁で支えるツーバイフォーと異なり、軸で支える在来工法は、壁の配置に制約がなく、開口部を大きくとったり、部屋を好きなように配置する自由度があります。建設する土地の形が変則的な場合でも、それに合わせた間取りにすることができます。
また、使用する木材によって予算を抑えることもできますし、比較的容易に増改築できるという点も、在来工法の魅力です。
在来工法には、
- 寸法を測り、
- 木材を切断し、
- ノミで削り、
- カンナで削り、
- 木材を差し込み、
- 釘で止める
という技術が必要になります。この技術を習得するには、長い年月が必要です。
- 個々の注文にきめ細かに応じることができる
- 建築プランに自由がきく
- 予定と違うことが起こっても、現場で対応できる
というメリットがある反面、職人さんひとりひとりの技量が大きく影響するのです。
このため、在来工法で家を建てる場合は、「誰に建ててもらうか」ということが重要な問題になるのです。
大工の最高峰、宮大工の技術
宮大工という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。
主に神社や仏閣など、木組み工法で建てる伝統建築を手がける大工さんのことで、宮大工は木組みの技術を習得している大工さんです。
いわば在来工法の頂点に立つ大工さんと言える宮大工は、非常に多くの技を習得しなくてはなりません。
大工には、指矩(さしがね)という特殊な物差しのような道具を使って、すべての寸法を出していく「規矩術(きくじゅつ)」という技術があります。宮大工の場合、最高の規矩術を身につけなくてはならず、その技術の習得だけでも10年以上かかってしまいます。
一般住宅では使えませんが、釘を1本も使わずに、100年、200年ももつ建物を作る技です。屋根に反りをつけたり、扇状にしたりする華麗な技もあります。
京都や奈良の世界遺産や国宝指定されている建物にも使われている技術です。
匠平家では、伝統的な在来工法を使って家を建てています。1854年から、5代にわたって宮大工の技術も継承していますので、より精巧で複雑な注文にも対応できる体制が整っています。
宮大工の技術については、「現代の一戸建てにも引き継がれる、驚くべき宮大工の技術とは」という記事でも紹介していますので、参考にされてください。
木材の種類について
一戸建ての建築には、ヒノキ、カエデ、ヒバ、スギ、ツガ、マツなど多くの木材が使われます。木造住宅は“木のプロ”である住宅工務店にお任せくださいでも紹介しましたが、これらは、それぞれ、強度や性質、有効な使用場所などが異なります。
木材は大きく、針葉樹と広葉樹に分けられます。針葉樹にはまっすぐに伸びる樹種が多く、代表的なものにはスギ、ヒノキがあります。針葉樹は柔らかいので加工しやすく、建築木材として多く使われています。
広葉樹のほうは、硬くて重い、強くて腐りにくいという性質をもっています。代表的なものにはケヤキなどがあり、大黒柱に使われています。
木材の特徴は、産地や材齢によっても違います。
神社や仏閣は木造ですから、宮大工は木材それぞれがもっているこれらの特徴をよく理解し、適材適所に使っていきます。
宮大工は、木材を見て、種類や特徴、建物のどこにどういうふうに使えばいいのか、といったことを瞬時に判断することを求められます。
社長・外川秀之、専務・外川裕之は、二人とも、目を閉じたまま木をなめるか、匂いをかげば、どんな木なのかを即座に判断できます。木材はすべて感触も匂いも違うものを持っているため、目を閉じていてもそのようなことができるのです。
同じ1本の木でも、立ち木のときに樹皮側だったか、樹芯側だったかによって、性質が異なります。その違いが、木材が乾燥したときに「反り」「曲がり」「ねじれ」といった変形を起こします。
木材を知ると、家を建てたときだけでなく、将来その木材がどのように変化し、それによって建物全体にどのような影響を与えるかといったことも判断できるようになります。
こうした変化を読むことができて、はじめて、長く暮らしていただける家を建てることができるようになるのです。
自然素材について、お客様に知ってほしいこと
ずいぶん前のことですが、こんなことがありました。
そのお客様は自然素材の家をご要望されていたので、内装を杉板張りにしたのですが、できあがったものを見て、お叱りの言葉を頂戴しました。
「節が揃っていない。色も違うから、全部張り替えてほしい」
これは、事前の説明が不足していたことによるトラブルと言えます。
自然の木というものは、1本1本色が違うのが当たり前。そのように思っていた私は、お施主様も同じように理解していると早合点してしまったのです。
そのお施主様がイメージしていた「自然素材」というのは別のものだったのでしょう。単に「木目模様」ということをおっしゃりたかったのかもしれません。プリント模様なら、節の位置も色もまったく同じ色になりますから。
このお叱りを受けたことによって、私たちは大切なことを学習しました。
お施主様は「知らないかもしれない」という前提に立って、丁寧に説明しなければなりません。特に、木のように時間の経過とともに変化するものは、事前にそのことを伝えるようになりました。
「自然素材はひとつひとつ、全部違いますよ」
「自然素材はへこみやすいですよ。色が焼けたり、割れたりします」
「無垢材には節があります」
「傷がつきやすいですよ」
建物のとこに何の木を使ったらいいのか、それはなぜかという説明だけでは不十分だということがわかったのです。
木は生きものですから、1本1本異なる顔をもっていること、時間の経過とともに、どのように変化していくかということなどを詳しく説明するように心がけています。
お叱りの言葉ではなく、喜びの言葉をいただくこともあります。
「ホントだ、無垢材が反ってきました!」
木材の性質をきちんと説明し、納得していただければ、実際に反ったときにも、むしろ喜んでいただけるのです。
無垢材には節があります。割れます。反ります。伸び縮みします。こうした特徴は、欠点ではなく、その木の「味」です。変化するから、面白いのです。
木材の変化を「味」としてとらえることができるのでしたら、ぜひ、無垢材を使った家にお住まいいただくことをお勧めします。床を無垢材にすると、素足で歩いても温かく、フローリングよりも柔らかいので、とても気持ちがいいのです。調湿効果もあるので、室内を快適にしてくれます。
耐震構造にお金をかけるべきか
「地震が心配なのですが」
「木造住宅は地震に弱いのでは?」
そんなことを聞かれることがあります。
残念ながら、地震大国である日本に住んでいる以上、地震の不安から逃れることはできません。地震に強い家づくりは、必須のことなのです。
「当社では、建築基準法の2倍のスジカイを入れています」
「当社では、壁に合板を張り、揺れを面で受けますので、地震に強いんです」
「当社は免震工法です」
「当社は制震工法です」
工務店で耐震について尋ねてみると、異口同音といってもいいほど、「当社の住宅は大丈夫」という似通った宣伝の言葉が返ってくることでしょう。
それらの耐震構造にすぐれた効果があることは間違いありません。でも、いずれもお金のかかる設備であることも確かです。
誰にとっても地震は怖いものには違いありませんから、耐震構造にするのにはお金がかかると言われても、「それで安心できるのならしかたがない」と取り入れてしまいたくなるものです。その気持ちは、まったく理解できます。
でも、金銭的負担が大きくなってしまうことは、家を建てる人の幸せにつながっていると言えるでしょうか。
高額な耐震構造に手を出す前に、以下の提案も参考にしてほしいのです。
柱を太くせず、家を経済的に強くする工法とは
100年、150年という単位で建物を存続させ、修復を繰り返していく神社やお寺では、材は大き目、太めのものを使います。そういう見地からいうと、一般住宅で使われている企画寸法は、細いし、柱は少ないと感じられます。
もちろん、ただ柱や梁を大きくすればよいというものでもありません。
今、多くの工務店は次のようにアピールしています。
「当社の柱はすべて4寸角(12×12cm)を使っており、断面積は、一般の3寸5分角(10.5×10.5cm)の1.3倍あります。だから丈夫で地震に強いのです」。
柱1本の強度で考えれば、確かに4寸角のほうが強いのは確かです。ただし、そのためには金額も1.3倍アップしてしまうことになります。
柱を太くすれば、その分だけ壁の厚さも増すことになります。3寸5分角を4寸角に変更すると、部屋の内法(うちのり)寸法は、3cm狭くなることになります(内法寸法というのは、対面する二つの面の内側から内側までの長さのことです)。
部屋が10畳、12畳の場合には、3cm狭くなってもさほど気にならないかもしれません。でも、トイレや廊下ではどうでしょうか。実質的な有効幅が77cmしかない場所で4寸角の柱を使うと、幅は74cmになります。狭い空間での3cmというのは、意外に大きな差なのです。
狭いトイレや廊下は、住む人の幸せになることなのでしょうか。
住む人の幸せを考えた場合、こんな提案をしたいのです。4寸角を使った場合よりも家を強くすることができ、金額も圧倒的に安い方法です。しかも、部屋を有効に使うことができます。
柱は3寸5分角のままで、通常1.8mまたは2m間隔で建てられる柱を、半分の90cmまたは1m間隔にするのです。力がかかる隅柱や通し柱は4寸角にします。
これが、経済的に家の強度を増す方法です。
梁は高さを厚くする
次は梁です。
梁というのは柱と柱をつなぐ水平方向の木材で、床や屋根の重さを柱に伝える役割があります。地震が起こったときには、水平方向の荷重を支える働きをします。
この梁は、幅を広げるよりも、高さを厚くしたほうが数倍強度を増すことができます。
簡単な実験をご紹介しましょう。
コップを2つ用意して、15cmくらいの間隔をあけて置きます。
この2つのコップの上に、割りばしの橋を2膳かけてみましょう。1膳は、広い面を上に向けて平らに置きます。もう1膳は側面の細い面が上にくるように置きます。
この2膳を、上から下に押し比べてみてください。
平らに置いた割りばしはしなりますが、側面を上にした割りばしは、なかなかしならないはずです。
梁の高さを厚くするということは、こういうことです。こんな簡単な実験で、安くて丈夫な家を作るためにはどうすればいいか、おわかりいただけたのではないでしょうか。
この他、「注文建築の建築現場を訪れたらチェックすべき項目とは?」という記事でも紹介したように、スジカイについては、匠平家では、木が痩せても建築基準法で定めた90cmを下回らない、120cm幅のスジカイを使っています。
地震に耐える家をつくるには、規格寸法を守るだけではなく、そのように「増しておく」ことが大切です。
検査に不合格にならないように作るのか、地震が起こっても倒れるようなことがないために、基準を上回った性能の建物を作るのか。
工務店の考え方は、このようなことに、はっきりと表れるのです。
家を建てるときには、その工務店が今建てている家の建築現場を見せてもらいましょう。
その際には、ぜひスケールを持参して、柱の間隔やスジカイの寸法を測ってみてください。