山梨に家を建てようと決め、信頼できる工務店を選ぶことができた。いい営業マン、いい職人さんたちにも出会うことができた。よし!これでいい家が建てられるぞ——!
ちょっと待ってください。じつは、まだそれは早合点なのです。
営業マンと職人さんの間には、現場を仕切る「現場監督」という存在があります。
この現場監督、お施主様との接点も多いのに、意外と知られていないかもしれませんね。
じつは、ストレスなく、いい家づくりをできるかどうかは、この現場監督の力量次第と言ってもいいほど重要な存在なのです。
今回は、この現場監督が果たす役割、いい現場監督の見分け方を紹介しましょう。
現場監督と上手に付き合えば、家づくりはグーンと楽になりますよ!
現場監督って何をする人なの?
現場監督というと、資材を運んだり、大工さんの手助けをするのが仕事だと思っていらっしゃる方もいるようです。実際に現場を訪れてみると、そうした作業をしている姿も見ることができるので、つい勘違いしてしまうのも無理はないのですが、こういった仕事は、本来の現場監督の仕事ではありません。
現場監督とは、その現場の一切を取り仕切る、現場の最高責任者です。
現場監督の仕事は、大きく分けると、二つあります。
ひとつは、「現場のチェック」です。
必要な搬入品はすべて揃っているか、工期に遅れは生じていないか、安全は確保されているか、設計図通りに仕上がっているか、といった現場の状態をつねに確認するのが現場監督の仕事です。また、検査書類を確認・整理したり、追加工事の施工資料を揃えたり、金額を提示したりといったデスクワークも行います。
もうひとつの仕事は、お客様と職人さんをつなぐ「仲介」です。
それまでは、お施主様が質問したり相談したりする相手は、営業マンでした。でも、家づくりの工事が始まると、お施主様の相手をするのは現場監督に替わります。熟慮の末に変更したいことが出てきたような場合は、現場監督にそれを伝えていただくことになります。
実際に工事が始まってみると、さまざまなことを検討しつくしたはずの設計図であっても、なんらかの変更点が必ず出てきてしまうものです。そうした際に、お客様の要望を聞きとって、職人さんに伝えるのが現場監督の仕事なのです。
そんな伝言ゲームをしなくても、お客様が直接職人に伝えればいいのでは?と思ってしまうかもしれまえんね。でも、ほとんどのお客様は建築に関しては素人です。また、職人さんの側も、話を聞くプロではありません。うまく間を仲介して、現実的な解決策を提示するには、現場監督という存在が必要になってきます。お客様と職人さんとの間で認識がずれてしまっていると、誤った解決策のまま家づくりが進んでしまうことになりかねません。そこで、現場監督がお客様の要望を正確に聞き取り、建築のプロとしての言葉で、職人さんに伝えていくわけです。
もちろん、お客様が要望したことをすべて鵜呑みにして進めるということではありません。いただいた要望よりももっとリーズナブルな方法、より適切な方法がある場合には、逆に、それをひとつの選択肢としてお客様に提案したりすることもあります。
安くていい家は、こうした現場監督の配慮があって、初めて実現することができるのです。
職人さんから信頼され、職人さんを大切にするのが「いい現場監督」
いい現場監督は、職人さんたちから信頼され、大切にされています。
建築という仕事は、大勢の職人さんたちの協働作業ですから、現場作業をスムーズに進めるためには、なんといってもチームワークの良さが不可欠です。
現場監督は、現場に常駐して職人さんの働きを見張っているわけではありません。チェックすべきポイントを押さえたら、あとはプロフェッショナルである職人さんたちにお任せします。お客様と職人さんが直接話をすることはないと書きましたが、内容にもよっては、現場監督の判断で、お客様と職人さんが直接打ち合わせをしていただくこともあります。もちろん、その内容は職人さんから現場監督に事後報告してもらいます。
こうしたことから、「この人のために一生懸命やりたい」「この人に余計な負担をかけたくない」と職人さんに思ってもらえるような現場監督ほど、現場の作業はスムーズに進み、しかも仕事も丁寧になります。
現場監督は、ひとつの現場の専属ではなく、たいていの場合、複数の現場を掛け持ちしています。職人さんたちが現場監督を信頼し、協力してくれるからこそ、どの現場にも均等に力を注ぐことができるのです。
そういった現場監督の役割、仕事を知ってみると、最初にイメージしていた「現場で職人さんに頼まれて材料運びをしている現場監督」という姿は、ちょっと注意したほうがいいかもしれません。そういう仕事をしているということは、職人さんから信頼されているどころか、もしかしたら少し軽く見られてしまっているのかもしれないからです。だとしたら、本来彼が果たすべき現場監督の仕事がおろそかになってしまっている可能性があります。現場のチームワークがうまく働いていないのかもしれないわけです。
職人さんに大切にされているということは、裏を返せば、現場監督のほうも、職人さんを大切にしているということになります。
じつは、それができていない現場監督や工務店が、結構たくさんあるのです。
「お客様第一」というモットーを掲げているからと安心していると、職人さんに対しては、まったくの下請け作業員の扱いで、一段低く職人さんを見ているような工務店もあります。
そんな現場で、職人さんたちが気持ちよく働くことができるでしょうか。
まず現場監督が、職人さんに対して尊敬と感謝の気持ちをもつということが、良いチームワークにつながり、いい家を建てるための一番大切なことなのです。
現場監督は「お客様の味方」
「いい現場監督」のもうひとつの条件は、お客様の目線を持っているということです。
現場監督の仕事のひとつは、お客様と職人さんをつなぐ「仲介」と書きましたが、このとき、現場監督が職人さんよりの立場に立ってしまうと、お客様の気持ちは置き去りになってしまいます。建築について素人なのはお客様だけですから、ふたりのプロが互いに味方しあってしまっては、お客様は何も言えなくなってしまうでしょう。
たとえば、建物の強度を上げるための金具が、柱に曲がって取り付けられていたとします。多少曲がって金具が付いていても、実は問題ないのですが、お客様はそんなことはわかりませんから、もしかしたら、それが気になってしまうかもしれません。
「あの金具、曲がって付いているように見えるんですけど、あれで強度のほうは大丈夫なんでしょうか?」
こんな質問をされるかもしれません。
ところが、この質問に対して現場監督が、
「ああ、あれは曲がっていても大丈夫なんですよ。気にしないでください!」
とだけ答えたら、お客様はどう感じるでしょうか。
そんなふうにプロに言われてしまったら、それ以上、「でも……」と質問を重ねることはできなくなってしまいますよね。そうしたケースが何度も積み重なると、
「もしかしたら、あの人に言いくるめられているのでは?」
と、だんだん不安になってしまうかもしれません。
では、現場監督がこんなふうに説明してくれたらどうでしょうか。
「ああ、すみません。あれは多少曲がっていても、強度上は問題ないんです。でもお客様にしてみたら、やっぱり気になりますよね。どうしてもご心配でしたら、直しますので、言ってください!」
こんな言い方をしてくれる現場監督なら、お客様の不安をなくそうという姿勢がちゃんと感じられますよね。
いい家を建てるためには、設計図通りに問題なく仕上げることは当たり前で、さらにそれに加えて、お客様の不安をひとつでも解消して残さないということが大切です。
いい現場監督は、そんなお客様の不安をすばやく感じとりますので、アドバイスひとつするときにも、その理由をちゃんと説明してくれます。
もちろん、現場監督がお客様の味方でありつづけることは、言うほど簡単なものではありません。
現場監督としては、職人さんたちが一生懸命にやっていることは、重々わかっていますから、「お客様の言う通りに、やっぱりここを変えてほしい」ということをなかなか伝えることができず、悩んでしまうこともあるでしょう。
そのような職人さんへの気遣いも、現場監督には必要な要素ではありますが、それでもなお、「迷ったらお客様の側に立つ」という姿勢が、理想の現場監督には必要です。
そうした結果の積み重ねが、お客様目線を養っていくための訓練にもなり、自らの技術を上げていくことにもつながっていくのです。現場監督が成長していくことは、職人さんにとってもうれしいことです。
新人とベテラン、どちらの現場監督がいいの?
上に書いたように、現場監督は多くの経験を積み、様々なケースの場数を踏むことによって成長していきます。では、より実務経験が長いベテランの現場監督ほど「いい現場監督」だと言えるでしょうか。
実際は、それ以上に大事なことがあります。
「いい現場監督」に必要な資質のうち、経験は3%といったところでしょう。
残りの97%は、誠実、勤勉といった、その人の人柄です。
経験を積み重ねているということも、もちろん貴重なことです。しかし、悪くいえば、いかようにも現場をコントロールできて、お施主様からいただいた要望も、もっともらしい理由をつけて断ることができるような話術を身につけてしまっているということかもしれません。巧みな話術を使って、高い工法や設備をお施主様に押しつけてしまうことも、できてしまうかもしれないのです。
一方、誠実な現場監督は、まずお客様の利益ということを考えます。
新人で、経験も不足しているために、お施主様から質問されても、その場で答えることができないかもしれません。でも、誠実な現場監督なら、一度それを持ち帰って、相手が満足できるような答えを必ず用意しようとするでしょう。もちろん、ある程度の経験と知識は必要ですが、お客様第一という意識をもち、うそをつかない約束を守る誠実さがあれば、たとえ経験が不足していたとしても、十分にそれを補うことはできるでしょう。
新人かベテランかという経験の差は、そんなに大きな問題ではありません。人柄という基準でみれば、じつはどちらでもいいのです。ただ、新人の現場監督は、自分も知識がない分、よりお客様の目線に近いかもしれませんね。
もちろん、人柄が誠実である上に、経験も十分に備わっていれば、それ以上のことはないでしょう。
現場監督を替えてもらうことってできるの?
「あの監督さんはちょっといい加減だなー。このまま任せておくのはちょっと不安……」
そんなふうに感じられたら、すぐに工務店に連絡して、別な現場監督に替えてもらいましょう。不安を抱えたままでお付き合いすることは、工務店の側もまったく本意ではありません。お互いの関係が悪くなってしまうようなことが起こる前に、早めに伝えたほうがいいと思います。
ただし、工務店の規模によっては、現場監督がその人ひとりしかいないようなこともあります。そんなときは、思いきって工務店ごと替えればいいか、というと、残念ながら、それはほぼ無理だと思います。
通常、お施主様と現場監督が初めて顔を合わせるのは、仕様の確認のときです。もう少し早い場合でも、建てる位置を確認するために土地に縄を張る「地縄張り」のときです。
いずれにしても、このときにはすでにもう工務店との契約は済んでしまっていますので、建築が始まってから、工務店を替えることは、契約を破棄することになり、難しいと言えるでしょう。
そんなふうに現場監督で後悔しないためには、お客様がご自分で情報を集めることが必要です。
たとえば、住宅見学会というのは最適な機会です。
見学会には、たいていの場合、現場監督も参加しています。ぜひ声をかけて、その人の人柄を感じとってみてください。
見学会には職人さんも来ていますので、現場監督について聞いてみるのもいいでしょう。
「あの監督が仕切る現場は、職人のことも気遣ってくれて仕事がしやすいんです。いい監督さんですよ」
こんな好意的な言葉が本心として職人さんから出てきたら、きっと安心できるでしょう。
「あの人、現場のことをよくわかっていないんだよね」
「いつも命令ばっかりして……」
というような否定的な言葉が出てくるようなら、その現場監督は要注意だと言えるでしょう。
もし、見学会に現場監督に会うことができなければ、事前に会いたいと工務店に申し出てみましょう。現場監督は、それほど重要な存在なのです。
家づくりの成功・失敗を分ける「現場監督の良し悪し」とは? まとめ
現場監督の仕事についてもっと知りたい方には、こちらの「現場監督入門メディア「目指せ!住宅業界の現場監督」」というサイトがお勧めです。新人現場監督さん向けの記事が掲載されていますが、読んでみると、その仕事の重要性がよくわかります。
営業マンも、職人さんも、そして現場監督も、結局のところ、一番大切なのは、お客様の幸せを考えるという姿勢です。
工務店として、そういった姿勢を皆がもっているかということを見きわめ、お施主様も含めて、より良いチームワークによって、幸せな家を建てていただきたいと思います。
そのためにも、ぜひ住宅見学会に参加して、私たちの人柄をじかに確かめてみてください。