じつは、私たちの暮らしの中で使われる言葉の中には、建築用語が語源のものが結構たくさんあります。この「結構」という言葉自体も、あとでご紹介しますが、建築用語に由来しているといわれます。
「住まい」は人の生活には欠かせないものです。住まいに関する建築用語から様々な言葉やことわざ、慣用句が生まれたのも、そういう意味では不思議なことではないかもしれませんね。
ここではそんな言葉をまとめてみました。家づくりが始まり、職人さんなどとお話しする機会に、これらの豆知識を知っていると、感心してもらえるかもしれません。
家づくりが始まったら、「大工さんの仕事のジャマになるのでは?」などと心配せず、毎日でも現場に足を運んでもらいたいところです。
お施主様に現場に来ていただきたい日と、見るべきポイントについては、「注文建築の建築現場を訪れたらチェックすべき項目とは?」という記事をぜひご覧ください。
身近な「建築由来の言葉」を知って、山梨での家づくりに役立てよう!
“細部まで丁寧”が転じた「几帳面(きちょうめん)」
「几帳(きちょう)」というのは、平安時代以降、公家の邸宅に使われていた間仕切りの一種です。几帳の柱の表面は丸く面取りされており、両側に刻み目が入った細工が施されていました。本来、その細工のことを「几帳面」といいます。宮大工の技に通じる職人の技術が感じられますね。細部まで丁寧に仕上げられていることから、転じて、「きちんとしたさま」を表すようになりました。
「彼女は几帳面な女性なので、仕事がよくできる」
「私の父は会社では几帳面で、定年退職するまで一度も遅刻をしたことがなかった」
「うちの現場監督は几帳面な男でして、毎朝8時には現場前の道路を掃き掃除しています」
というような文章で使われます。
私たちも、代々伝わる職人の技を大切にしています。
家を建てる主役はやっぱり女性?「大黒柱」
大黒柱とは、伝統的な民家建築において、建物の中央に位置する柱のことですが、その語源には諸説あります。七福神の大黒天にちなむという説、大黒柱が台所のある土間に立っていることが多いことから来ています(大黒天は台所に祀られます)。古く朝廷の「大極殿柱(だいごくでんばしら)」から来ているという説などがあります。
大黒柱は、地震が多い日本の暮らしをカバーする知恵のひとつです。
1本1本独立した柱は、左右に揺れず上下に動くように、貫(ぬき)と呼ばれる横木に差し込まれるようにしてつながっています(柱に穴をあけて差しこまれているだけ)。それではさすがに家全体の重量を支えることはできないので、最も太い心柱に全部の梁をかけ、家の上屋の重みを支えるようにしたのです。
この最も太い柱をが転じて家の象徴となり、それを支える人のことを指すようになりました。普通は、家計を稼いでくる男性のことを指すことが多いのですが、台所に祀られる大黒天から来ているとすると、もともとは、台所を守る女性のことを指していたのかもしれませんね。私たち工務店でも、家づくりのお話を進める際には奥様のご意見は最重要なものとして尊重しています。
「彼は、妻と3人の娘を抱える主人にして、一家の大黒柱でもある」
「母子家庭だった我が家では、工場で働く母が一家の大黒柱だった」
「一家の大黒柱である彼は、家族のために毎日一生懸命に仕事をしている」
というような文章で使われます。
「匠平家は確かな目で木材を選びます」という記事でも紹介したように、木の性質を知りぬいている匠平家では、良い家をつくるために、硬くて重く、強く腐りにくいケヤキなどを大黒柱に使っています。
二つのものをつなぎとめる「子はかすがい」
子どもがいなければ崩壊してしまうかもしれない家族を例えた言葉で、子どもに対する愛情が夫婦としての縁をつなぎとめてくれるという意味です。
かすがいは「鎹」という難しい字を書きますが、2本の木材をつなぎ合わせる時に打ち込む大きな釘のことです。コの字型をしており、ちょうど巨大なホチキスの針のようなものです。鎹は二つのものをつなぎとめるものから上記のような意味が生まれました。
「あの夫婦は子供がいるから何とか持っているようなもんだ、子はかすがいだよ」
「お隣さん、子どもが生まれてから夫婦喧嘩が減ったみたいだね。子はかすがいって本当だね」
というように使います。
子育て世代の皆様のご家庭では、そんなことはないと思いますが、理想の家を建てるには、お子様にとってどのような環境が必要か、お子様自身のご意見がどうかということも大切な要素のひとつです。家族みんなで話し合って、理想の家づくりを目指してください。
妻をあやめたトンデモ棟梁の逸話が残る「建前」
「表向きの方針」「都合の悪いところをとりつくろった表現」のことを「本音」に対する「建前」といいますね。建前は真面目でも、本音は不純であれば、そのギャップが大きいほど人は面白がります。
木造建築で、基礎の上に柱、梁、旨などの主な骨格をくみ上げること、そしてそのときに行う儀式を「建前の儀式」といいます。主要な骨組みである「建前の儀式」が済めば、どのような家が建つのかがわかるため、基本方針や表向きの方針を指す言葉に転じたといわれます。
建前の儀式については民間に言い伝えられる、こんな逸話があります。
ある高名な棟梁が、玄関の柱が短いというミスに気づいたのですが、すでに建前の前夜のこと、もう直す時間はありませんでした。責任をとって死ぬことも考えた棟梁でしたが、棟梁の妻がその部分を升で補うという名案を思いついたため、無事に建前を済ませることができました。しかし棟梁は、その秘密が発覚することを恐れて、なんと妻を殺してしまいます。妻を弔うために棟に飾られたのが、女の七つ道具である口紅・白粉・櫛・かんざし・鏡・かつら・こうがいだったとのことです。まさに建前にこだわったために妻を殺してしまったことから、都合の悪いことをとりつくろった「建前」という言葉が生まれたといいます。
「日本人は建前は話しても、本音はなかなか明かさない」と言われます。建前は、「空気を読む」「忖度する」といった日本人独特の処世術に根ざしており、とくに外国人には理解しにくいようです。
弓矢4本から来ている、「束の間」
「束(つか)」というのは長さの単位で、弓矢4本分の長さで、指4本でひと握り分ほどの短い幅を指します。これが転じて、時間の短さを表す言葉として使われるようになりました。建築でも、短い柱のことを「束」といいます。
「束の間の夢」「束の間も忘れない」などというように使いますね。
私たち匠平家は、お客様の幸せのことを束の間も忘れたことはありません。
今でも建築図面に書いてある?「いの一番」
最近ではあまり使われなくなった言葉ですが、「いの一番」というのは、一番最初にする、という意味です。
「いの一番」とは、家を建てるときに最初に柱を建てる位置のことを指します。柱の配置は「番付」というもので決められていますが、横方向はい・ろ・は…で、縦方向は一・二・三…となっています。基礎ができて最初に柱を立てるのは、「い」の「一番」。そこで最初の掛け声が、「いの一番」なのです。
「基礎コースは、基本をかためるための内容なので、いの一番に受けていただきたいものです」
「待望の松風呂が完成したら、いの一番に夫婦でつかりたい」
というように使います。
ぜひ一戸建て建築の現場を訪れて、い・ろ・は…、一・二・三…と採番された建築図面を見せてもらってください。
商人の見栄から来た「うだつが上がらない」
「うだつ」は「卯達」と書きますが、昔、隣家との境に設けられた袖壁のことです。ひしめき合って建っていた町は火事になると燃え広がってしまいますので、それを防ぐために、卯達を防火壁として立てるようになったのです。この防火という本来の目的以外に、次第に装飾として流行りはじめ、とくに商人たちが競い合って豪華な卯達を建てるようになったことから、「なかなか出世しない」「地位が上がらない」「生活が向上しない」「ぱっとしない」さまを、「うだつが上がらない」と表現するようになりました。
「もう20年も働いているのに、ほとんど給料も上がらず、役職もつかず、うだつが上がらない」
「いつまでたってもうだつが上がらず、独身のままだ」
「うだつが上がらないから、いつも生活に困っている」
などというように使います。
住宅建築にも大切な、「らちがあかない」の「らち」
「埒(らち)」というのは、囲いや仕切りのことです。もとは主に馬場の周囲に設けた柵のことを言いました。馬を走らせて勝負を競う「競べ馬」の際に、この柵が開くまで競技が始まらないことから、なかなか思うようにものごとが進まず、途中で止まっているような状態のことを「らちがあかない」というようになりました。
「電話では、埒があかない」
「押し問答が繰り返されて、いっこうに埒があかない」
というように使います。
ほかにも「埒」を使ったものに「不埒(ふらち)」という言葉があります。これは柵がない、つまり法や道徳にはずれており、道理がないという意味で、「不埒な行い」などというように使います。家づくりにおいては、守るべき「埒」(法や道徳)が数多くあります。私たち匠平家も、工務店としてそれらをしっかり守って皆さんの家づくりをサポートしていきたいと思います。
お施主様の「満足」につながる言葉、「結構」
元は漢語で、建造物の構造、組み立て、構成を意味する言葉でした。日本に輸入された際に「計画」「もくろみ」といった意味で用いられるようになり、さらにその計画を「みごとだ」「立派だ」と評価する用法が生まれたことから、言葉としての意味が拡大し、今では「満足できる状態であるさま」を表すようになりました。工務店として私たちが目指しているのも、お施主様の「結構」という言葉です。
断りの言葉として、「もう結構です」という言い方がありますが、これは意外と最近生まれた用法です。「十分満足しているから、もうこれ以上は必要ありません」といった丁寧なニュアンスが元になっています。
「結構おいしい」というように副詞表現として用いられることもありますが、この場合は、「十分とは言えないが、思っていたよりも満足できる」というような意味になります。
混ぜて練って叩くから、「たたき上げ」
「たたき」は「叩き」ではなく、「三和土(たたき)」が語源です。これは「敲き土」の略語で、三種類の材料(赤土・砂利などに消石灰とにがり)を混ぜて練り、叩きかためることから「三和土」と書かれるようになりました。
現在の三和土は、コンクリートで仕上げられていますが、もともとは、長崎の天川土、愛知県三河の三州土、京都深草の深草土などといった「敲き土」に石灰や水を加えて塗り、叩きかためて作られていました。この叩き方が生半可だと良い土間にならないといわれたことから、下積み時代の苦労を経て一人前になることを「たたきあげ」というようになりました。叩き方ひとつにも、家づくりの職人の技が光っている様子が伺える言葉ですね。
夏に建てる蔵はNG?「ぼんくら」
語源には諸説ありますが、そのひとつは「盆蔵」から来ているというものです。土蔵というものは空気が乾燥している冬に建てるのが普通で、夏に建ててしまうと、土の表面ばかり乾燥して平均的に乾かず、役に立たない土蔵になってしまうと言われます。つまり「盆の時期」に建てられた蔵が使いものにならないことから、ダメな人のことを「盆蔵」というようになったというものです。
せっかくのデザインを台なしにする「羽目をはずす」
「羽目(はめ)」とは、建物に平らに張られた板張りのことです。せっかくきれいに張られた「羽目をはずす」と、建築としての意匠が台なしになってしまいます。このことから、調子に乗って度を超すようなふるまいを「羽目をはずす」というようになりました。外壁にかぎらず、新しい家のインテリアデザインは、台なしにならないように注意して使いたいものですね。
現代では、「昨夜はつい飲みすぎて、羽目をはずしてしまった」などというように使いますね。
山梨での家づくりにも役立つ豆知識 まとめ
いかがでしたか。
このほかにも、「段取り」「棚上げ」「縄張り」「畳みかける」「縁を切る」「仕切る」「落とし込む」「適材適所」「根回し」「釘を刺す」など、本当にたくさんの住まいの言葉が、現代の日本で普通に使われています。
言葉の語源をたずねることは楽しいものですが、まさに目からウロコが落ちてしまいますね。
職人さんたちの働きぶりがわかる言葉もたくさんあるので、よく知っていると、家づくりの勉強にもなりますよ!